太宰治 人間失格 古屋兎丸 まるっとネタばれ感想2009/06/16 04:01

古屋兎丸 人間失格を読んだ

古屋さんこれ描くのものすごい向いてる気がして単行本楽しみにしてた

話は現代風なアレンジになってる
マンガ家の本人(古屋氏)がある日、マンガのネタに困ってたどり着いた
ネット上の日記「人間失格」で主役の「大庭葉蔵」を知るという始まり

主役の大庭は子供のころから「ウケ」を狙って生きてきた
誰からも憎まれないように本来のクールさを閉じ込め、ふざけたり笑いをとったり
集団の中で絶妙なポジションを確保するために尽力している
裕福で旧態依然とした自宅、彼は親を押しきり美大を志す
と言ってもヒルズにマンションを用意され、「苦学」とは縁がない姿であるが
実力主義の競争が行われるそこで彼はピエロを装わなくてもよかった

美大予備校には本当の「遊び人」堀木がいて、彼をまきこむ
ピンサロに連れていかれ、「お前はこういうの経験ないのか」と言われると
負けず嫌いが出てしまう葉蔵
水商売の高校生を優しく抱いてしまう
葉蔵いわく、堀木は本当にバカな人だ。知性がなく、考えが浅く、その場の快楽で
生きていて、悪ぶっているのではなく本当にそうなのだ
絵描きになぜなりたいかーもてたいから
だとしても葉蔵にはそれを否定することは不可能だろう
彼の動機にしてもそれを上回るものでは多分ないから

彼といると優越感にひたれる葉蔵は、彼から離れられない

大会の趣旨を全く理解できない堀木に誘われ、ある日葉蔵は左巻きな底辺労働者のセクトの集会に連れ込まれる
「あの女、すごくいい女だろ!」
集会に行ったら行ったで、葉蔵は集会に迎合する発言をしてしまい注目を集める
そしてすっかり集会に取り込まれてしまい、不登校に
左巻きのくせに知性に乏しく、情熱と共感にうなされているだけに見える集団は
小馬鹿にするのに丁度よい

不登校が親にばれ、ヒルズを追い出され本物の底辺生活者になってしまった葉蔵
セクトのリーダーの信頼を得、偶然父の経営する企業爆破の実行隊に任命される
べたべたと優しいセクトの女に日常的な世話をされ、そのお返しのつもりで女を抱いてしまうが
ドアの外には二人の関係を怪しむリーダーの姿
女はリーダーの女だったのだ
彼が実行隊に任命されたのは彼を消すためでもあったのだ
リーダーが女を維持するためには葉蔵を無碍に追い出すわけにもいかなかった
連合赤軍まっさおじゃ
ここにある革命は理想や主義が突き動かしているのではない
個人的な嫉妬や共感、そういったものだけが燃料で
みな葉蔵と大差ない
政治のような大義名分をかかげないと集まれないし行動できないだけだ
集まれないと寂しくてどうもならんのだろう
共感を食い合って生きている人たち
知性や実践的な行動が積み重なっていくわけがない
爆発物はそのシンボルだ

しかし葉蔵とて同じだ
どこまで行っても一人になれない

自宅にも戻る場所がなくなった葉蔵
安っぽいクラブで安っぽい女アゲハを買い、その女に世話になる
セクトから激しく追われる葉蔵

堀木は何くれとなく葉蔵を心配する
彼からしたら葉蔵は友達だ
深く考えない、わりと良く知っている奴 それだけ
しかし彼が葉蔵に与えているものは友情だと思う
人生に対するアドバイスも何も無いが、彼の描かれようがとても面白い
貧乏になった葉蔵を自宅の食事に招こうとしたり
私にはとても情の深い奴に見える 好きよこういう人w
葉蔵は言うー俺はネットで日記を書き、それで作家になるータイトル1行目は何にしようかー
堀木は酔った勢いでアゲハにキスしようとするが
堀木はアゲハを安っぽい、といい遠ざける
はっきりと堀木に嫌悪を感じる葉蔵
堀木は葉蔵に気がついていたんだと思う
葉蔵にはこの女くらいしか残っていないのに取り上げてなんかしまえない
冷たい言い方しか出来ないのはそんな場でないから
なんだよ優しいじゃないかw

しかしそんなことさえ彼らは気がつかず、気持ちをこじらせてしまう
堀木にキスさえされない、全く売れない女として価値のない水商売のアゲハ
アゲハにすがるしかない葉蔵
何もかもが失敗だ お互いにね そうだね
ふたりで鎌倉にふと出向き、かなりなんとなく入水

せめて恋人のようでいたい
小説のように恋に燃えて、世間に居場所をなくして心中する恋人のようでいたい
「心中」「死」そうした言葉にそそのかされる
そうでないから形にとりつかれる
生きてる以外に何も無いから死ぬことにすがる
わずかな同情?同意?を確認しようとする弱々しい二人の姿
生きてる以外に何もないのは死んでみないとわからない

ただ葉蔵に本当に何もなかっただろうか
裕福な家、ちょっと馬鹿だけど変わらず接してくれる堀木、
世話をやいてくれるセクトの女
状況を分析する力まであるのに
希望通りでなかったから捨ててしまっただけに見える

受動的にしか生きてこなかったので
最後はみんなの望む空気を察して死のうとしました
そんなとこか

でも本当は身の回りにあふれるいろんなものを捨ててしまっている
それに鎌倉の海に入ってもまだ気がつかないだけで
ありふれた貧しさとか凡庸さに耐えられない
ヘビでも飼えばいいのに

葉蔵だけが助かる うつつで思い浮かぶ日記の最初の言葉
「恥の多い生涯を歩んできました」
the end

もうこの沈鬱な雰囲気w 美しいレイアウトw
古屋せんせい!!ブラボー
彼の描く顔の細い青年はみなどっか似てるけど
定型すぎてみんな好きだよw
彼の描く顔は意外性がない
良くも悪くも
なんでそこまでアニメやマンガの行儀作法に忠実なんだろうこの人
いや忠実であろうとするのが透ける感じなのか
昔はコマ割りとか意図的に変則なのあったしな
パレポリとかもう爆笑しながらどんだけ読んだか
と、たまに思うんだけど
まーそれはもうちょっと年とってからのお楽しみにとってあるのかな

全体的に8−90年代くらいの時代設定で読むといいのかもしんない
せんせーがその世代ですからのう
いまどき美大予備校で頑張るなんてあんまなさげ
あーでもだからいいのかな、こんな時代に権威が欲しい
今は受験なんかしなくても、大学なんて行かなくても名乗った瞬間から誰でも絵描きだ
学費も高いし専門の方が実践的かもしらんし
パースひとつ理解できてなくても同人から商業誌へうつれる時代

受験は勝負強さあると思うけどな
そのへんは経験値がでる 進学校の子は一浪すればだいたいいいとこ行ってた
模擬でちょっとずつ慣れてものにしてくしかない
周囲の状況にすぎないけどそういうのを見慣れているからだと思う
何でもそうだよな、そういうのは
サッカー見てても思いますよ

セクトの感じも自分の世代でぎりぎりじゃないか
あんなの今時あるのかなあ 自分ち近所に見沢チレンいたっけ
新興宗教とかに置き換えた方がわかりいいかな
まあ丁度派遣切りとかそんなんあったし、良い設定になってたと思う

うーんどっかで軋轢がある人生とゆーのはしんどいからな
めんどうだ
でも軋轢をさけてるとこうなるわけですな
お前イラネって言われたら死ぬしかない
いろいろ結構なんとなくなんとかなってる人のが多いわけで
共感なんて部分的でしかありえないのだけど
なぜ自分がそうなれないのかは分からない
ずっとわからない
ま、そんなん考えてもメシの種にはならん
受動的でいると会社では重宝されることもある
セクトに馴染んでしまうのと同じ「理解が高い」にニアだからじゃね
でも本当はそんなのあんま必要ない
リーダーの女だとか、そういう事の方が結局有利
知性なんかいらない妄信の方が強く作用する
蟹座の世界 山羊座の世界はまだ遠いかw
せんせー、こんど山羊座っぽいこのへんの話かいてください
だめなものはだめなものとして組織にとりこんじゃう話とかさ
あーでも今の時代そんななのか
格差、としてひとつの世の中を考える
頭脳微妙自分やばい

主役の、
家庭内とくに父と自分の関係がまずこわれ
自分と社会の関係ー学校生活が破綻し
自分が男性であったせいでセクトと破綻し
最後に女としてもいけてない女と生き物として平等に残されている命を捨てる
その落ち方がきれいですな
でも一人じゃ死ねない
人間はサルと同じで死ぬ時まで群れないと死ねない
共感がないと死ぬ事も何もできない
人間の自己形成を逆からたどってるみたい

考えがわかりすぎて、そういう意味ではつまんないけど
おもしろかったですーー